葉月さん の日記
| 06月 11日 23:48 | 夢に沈む・7話(前編) |
|
ガタッ…ガタン。 「……ん…?」 ガタガタという騒音と、急に感じた眩しさに意識が覚醒する。 目を開けると、そこはあの薄暗い地下牢ではなかった。 太陽の光が差し込む部屋は白っぽく見えて、見た事は無いがここが所謂あの世なのかと思った。 「……ここは…」 「目が覚めたか」 母国語で話し掛けられたので一瞬国に帰って来たのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。 意識が途切れる直前に見た顔が、何故か今もまだ目の前にあった。 「お前は…」 「……悪かったな。中佐にはこっちも困ってるんだ」 さわさわと柔らかい風が左頬を撫でる感触が心地良い。 さっきの騒音は窓を開けた音だったのだと理解した。 男から視線を外して部屋を見渡そうとしたところで、ふと視界に違和感を感じた。 狭い。視野がいつもより。 おかしい。 、右目が。 そろりと顔の右半分に指を這わせる。 包帯の感触。痛みは無いが熱を持っているようだった。 俺が呆然と包帯に覆われているであろう箇所に触れていると、目の前の男が手首を掴んで無理矢理手を引き離そうとしてきた。 「やめろ。触るな」 「目、は…」 「……原形は留めちゃいるが使いもんにならない程に損傷してる。…諦めろ」 諦めろ。 脳にその言葉が染み渡った時、頭の中に映像がフラッシュバックした。 顔を裂かれる痛みが蘇る。右側全体が熱と痛みに侵されて引き攣れた。 痛い。 勝手に涙が流れた。 「ッ…、う…」 戦場に出た時点で体の一部を失うくらいの覚悟はしていた筈だった。 それなのに涙が止まらない。 覚悟なんて。いくら心でしようとも実際に体の一部を失ってみないと分からない事がある。 こんなにも混乱するものだなんて知らなかった。 さっきまであった物がもう、無い。奪われてしまった。 涙が伝うのは左の頬ばかりで、それにさえ頭がこんがらがる。何故、と。体の痛みを、事実を、頭が拒否してる。 ぐるぐると回る気持ちの悪さから、夢と思いたくなる現実から逃れたくて。 救いを求めるように、目の前の男に手を伸ばして縋った。 . |
|


